生成AIがいよいよ幻滅期に突入

産業界では新しい技術革新が起こるたびに、それがブームとなり、さまざまな便乗ビジネスが生まれては、その多くが失敗して一気にブームが下火になる、という現象が常に繰り返されています。米国の調査会社Gartnerは、それを「ハイプ・サイクル」と呼んでいて、その予報を出しています。それによると生成AIが、ついに「幻滅期」に入るとのことです。

出典:Gartner (2024年9月)

幻滅期に入ると、その技術革新は無に帰するのか?というと、そうではありません。ブームで膨らみすぎた無駄な要素がそぎ落とされるだけのことです。

マルチメディア、インターネットの歴史を振り返る

かつて、インターネットが商用化されるより以前の90年代初頭に「マルチメディア・ブーム」というのがありました。それまでのコンピュータは数字を計算したり、せいぜいワープロで文字を書くことぐらいしかできなかったのが、CPU が16ビットから32ビットになったことで、音声や画像、動画などの再生能力が一気に上がり、それを「マルチメディア」と称して大いに盛り上がっていました。その後、1994年にインターネットが商用化されると、人々の関心はそちらに移り、「マルチメディア・ビジネス」は一気に消失しました。「ではマルチメディアはなくなったのかと?」というと、そうではなく、「マルチメディア」という用語が死語となっただけであり、我々は現在、日々、インターネット上で音声、画像、動画を楽しんでいます。(生成AIでいう「マルチ・モーダル」は、かつての「マルチメディア」を彷彿とさせる用語です。)

もう少し捕捉すると、インターネット以前のマルチメディアでは、CD-ROMなどの記録媒体にコンテンツを収録するスタイルが主流を占めていたのですが、それには「何かが足りない」という印象がつきまとっていました。つまり、その足りないものとは「通信」だったわけで、その問題が解決されるのは、インターネットがブロードバンド化される2000年代を待たなければなりませんでした。そして、そのインターネットも1994年から黎明期が始まり、2000年前後に「インターネット・バブル」が始まり、その数年後には、新興企業の勝敗が決まる形でバブルが崩壊しました。新規参入機会が開かれていた期間は約10年でした。

インターネットは水平分散型のネットワークで、誰でもが情報発信できることから「やれやれ、これで民主的な時代が到来するか」と思いきや、それは大きな間違いで、インターネット・ベンチャーの勝者たちは大規模なデータセンターを建設して、インターネットを再び垂直構造に改変し、サイバー空間の支配者となって行きました。一方、そのような設備を持たない中小零細企業の事業機会は制限され、結果的に社会の階層構造が強化され、貧富の格差が増大する結果となりました。

さて、このような歴史を振り返りながら、生成AIの今後を考えてみましょう。

生成AIを使っていて「何かが足りない」という思いに駆られることは何でしょうか?そう、ありますよね。生成AIでアイデア出しをしたり、イラストを描かせたり、マインドマップを作成したり、プレゼン資料を作成したり、簡単なコードを書いたり、外国語を翻訳したり、じつにいろいろなことができます。苦手なことが克服できるというのは福音です。個人レベルでは、生成AIを使って得られるものは大きいです。しかし、できることは「並み」のレベルに留まります。生成AIが芸術的な作品を作れるか?生成AIが考えたビジネス・アイデアに巨額の投資ができるか?と言えば、とてもそんなレベルではありません。どこか腑抜けというか、魂が入っていないというか、空虚感が漂っているのが、現在の生成AIです。しかも、まだまだ期待したとおりの結果は返してくれません。

つまり、歴史的類推によると、これが克服されるような技術が揃うまで、あと10年かかることを覚悟するべきだろうという予測が立ちます。

ニューロモーフィック・コンピューティング

そもそも現在の生成AIは、原則的にクラウドで動作しており、インターネット経由でないと動作しません。「エッジAI」が議論されており、ローカルなパソコン上で動作するLLMモデルも出始めていますが、まだクラウド上の生成AIには性能面で及ばないようです。つまり、現在の生成AIは、1970年代に通信回線を介して端末からタイムシェアリングで大型コンピュータを使用していた時代と歴史的相似になっています。生成AIが本格的に実用化するには、データセンターなしで動作する生成AIの実用化が待たれています。それを可能にする技術は何かというと、ニューロモーフィック・コンピューティングだと思われます。

ニューロモーフィック・コンピューティングとは、従来のノイマン型コンピュータに替わるアーキテクチャであり、コンピュータのハードウェアの構造そのものを人工ニューラルネットワークとして構築するものです。それに対して現在のAIは従来のノイマン型コンピュータの上で、プログラムによって仮想的に人工ニューラルネットワークを構築しているに過ぎません。ニューロモーフィック・コンピューティングは、現在のAIよりも低消費電力で高速に動作することが期待されています。

ニューロモーフィック・コンピュータは、現在、インテルやIBMなどで開発されていて、今まさに実用化されようとしているところです。マイクロプロセッサの歴史に当てはめると、ちょうど2025年が1975年に相当すると考えられます。8ビットのマイクロプロセッサは1975年に出て来て、ご承知のように、それからパソコンの歴史が始まりましたが、実際にパソコンがオフィスで使われるようになるには、16ビットの時代まで待たなければならず、それは10年後の1985年頃でした。ニューロモーフィック・コンピュータが普及し始めるのは、たぶん2035年頃ではないかと思われます。

連想記憶

現在の生成AIの基礎となっている技術が何かというと、Deep Learning(深層学習)であり、つまり、多層型の人工ニューラルネットワークです。一部の識者は、これが「人間の脳機能をよく模倣している」と大げさに宣伝しているわけですが、それはいわゆるポジション・トークというやつで真実ではありません。たぶん多層ニューラルネットワークだけでは、本当のAIは実現されないと思います。

多層ニューラルネットワークの元祖は、1979年の福島邦彦氏によるネオコグニトロン ( Neocognitron)です。これと同時期の研究の中で双璧をなすものと言えば、連想記憶(associative memory)の研究があります。日本では中野馨氏(1972年)のアソシアトロン(Associatron)があります。そのほかに、Kohonen(1972)、Anderson(1972)が同時期に連想記憶のコンセプトを打ち出しています。

従来のコンピュータのメモリには番地が振られていて、番地を指定することで中身のデータを読み書きできようになっていますが、連想記憶とは記憶される情報そのものが、相互に関係づてられていて、ある情報を思い出すと、それに関連する情報を次々と思い出すことができるというような仕組みです。

ずばり言うと、人工知能がもう一段高いレベルに進化して、現在我々がインターネットを使っているのと同様な感覚で「実用的になったな」と実感できるようになるには、コンピュータのハードウェアがニューロモーフィックに移行して、その上で連想記憶が構築される必要があると思います。これらの技術が実用段階に達するのが、たぶん10年後だと思います。

我々が使用している自己組織化マップ(SOM)は、Kohonenによって考案されたもので、連想記憶技術としては、初歩的なものではありますが、方向性としてはAI技術を実用化するための重要な可能性を秘めております。

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